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辻調グループ フランス校

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土井原 英治さん「Le Sot l'y Laisse(ル・ソリレス)」

卒業生レポート

2013.02.12

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土井原 英治さん DOIHARA Eiji
[エコール 辻 大阪] 辻フランス・イタリア料理マスターカレッジ 1992年3月卒業
シャトー・エスコフィエ フランス料理研究課程 1992年 秋コース卒業
研修先: Claude DARROZE (ボルドー地方ランゴン)

店名: Le Sot l'y Laisse(ル・ソリレス) オーナーシェフ
70, rue Alexandre Dumas, 75011 Paris FRANCE
℡ 01 40 09 79 20

『フランス校は、夢・希望を育む"未来への創造の場"!』

"世界を舞台に活躍する"。
そんな夢を胸にフランス校へ進学した卒業生がその夢を実現し世界に羽ばたいている姿は、未来の食業界を照らす
大きな希望の光であると同時に、後進たちにとって頼もしく、また目標や憧れの存在でもあると思います。
1993年にフランス校を卒業した土井原シェフもそんな卒業生の一人です。
日本で確かな技術と経験を身につけた後、開業先に選んだ場所は、フランス料理の中心地とも言える
フランス・パリでした。

1992年エコール 辻 大阪を卒業した土井原シェフは、その秋フランス校へ進学しボルドー地方でスタージュも
経験しました。帰国後は箱根にあるオーベルジュ「オー・ミラドー」に就職。若干23歳でスーシェフに上り詰めましたが
8年半の勤務を経て転職を決意、国内屈指のレストラン業界大手の「ひらまつ」へ。
ひらまつでは広尾本店をはじめ、パリ店でも勤務を経験しました。その後銀座店や、本場「ポール・ボキューズ」と
同じ味わいを受け継ぐ「代官山メゾン・ポール・ボキューズ」で料理長として活躍し、2011年2月に退職、
同年10月にパリにて独立開業しました。
(ひらまつ時代の卒業生レポートはこちらから!→ https://tsuji.fr/sotugyo/so090225.html

自身にとっての「フランス料理」を表現すべくパリに店を構え約1年半。約20年に及ぶこれまでの経験と
確かな技術からその評判は瞬く間に広がり、今や地元のフランス人客でにぎわう人気のビストロです。
厨房で鋭く厳しいまなざしで料理を作る姿はまさに侍のようですが、食後に見せてくださった姿は一転、
そのはにかんだ笑顔にはシェフの人柄や、お客様にただただ料理で喜んでいただきたいという思いが溢れていました。
料理に対する思いが一際熱い土井原シェフに、開業やフランス校時代についてお話しいただきました。

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お店はパリ11区、偉人が多く眠るペール・ラシェーズ墓地の近くです。
この日、ランチは大盛況で満席でした。

■ 開業するに至った経緯と苦心したこと
<経緯>
開業前は、日本国内に20を超えるグループ店を持つ企業でシェフの仕事を任されていました。
大きな組織ではレストランを経営するためのノウハウなど学ぶ点が多かったですが、その一方で
自分が追い求めるものに対しその方向性との違いを感じるようになりました。
初心に戻り、本来の料理人としてお客様のために料理を作り続けていきたいと思った時、
自然と本場フランスでの開業を考え始めました。

<苦心したこと>
労働VISA取得や物件契約、開業準備において、言葉の壁や文化・考え方の違いから問題がない日はありませんでした。
でもそれは現在も同じです。日本であればスムーズにいくことも1週間、1カ月かかることは珍しくなく、
フランス人スタッフとのやりとりでも???と思うことが多々あります。

■ お店のコンセプトと名前の由来
<店名の由来>
Le sot l'y laisse(ル・ソリレス)とは、料理人だったら家禽の部位だとすぐにわかると思いますが、直訳すると
「愚か者はそれを残す」という意味です。作った料理を残さず食べて欲しい、という思いを込めて付けた名前です。

<料理のコンセプト>
ポール・ボキューズ氏の「La bonne cuisine, c'est de bons produits, une juste cuisson,
un bon assaisonnement, et c'est tout(おいしい料理とは、良い食材、良い火通し、良い味付け、それだけだ)」、
という言葉が全てのベースとなっています。

フランスで最初に食べたフランス料理がポール・ボキューズ氏の店だったのですが、この時の感動が今の自分の原点と
言えます。そしてフランス校ではボキューズ氏自ら教えていただく機会に恵まれ、その時の講義を五感で感じとったことが
料理のコンセプトにつながっています。

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準備とほぼ同時進行で開店することになってしまったため、内装は居抜きのままの状態とのこと。
これから色々と手を加え、シェフのイメージするビストロに仕上げていく予定だそうです。

■ 料理人としてやりがいを最も感じられること
フランス料理を本場のフランスで、地元のお客様に喜んでいただくことです。
フランスの素晴らしい素材をふんだんに使い、今までの経験の積み重ねから得た確かな技術をもって料理する喜びが、
お客様の楽しみにつながることはとても嬉しいことです。

フランス人の称賛表現は日本人とは違い直接的で明確。食べ終わったお客様がわざわざ厨房に出向いて
「je félicite le chef(シェフを賞賛するわ)」と声をかけてくださったり、「Bravo(ブラボー!)」と拍手で出迎えて
くださることもあります。まるで、スペクタクルやコンサートを観終えた観客のようです。

■ 仕事で常に心掛けていることや料理人として大切だと思うこと
料理をしているとなかなか客席と接することができませんので、サーヴィススタッフには「お客様は楽しんでる?
料理を喜んでる?」と常に聞いています。お客様が店での時間を十分に楽しみつつ料理に満足していただくことが
何よりも大切なことだと思いますので、時間がある時は必ずお客様と話をすることを心掛けています。
フランスではお世辞ということがなく、いつも直球で意見をくださるのでとても勉強になりますね。

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メインはフランス南西部・ピレネー山麓の極限られた地域のみで飼育されているという、芳醇な脂身のビゴール豚。
ソースに柚子胡椒がほのかに効いていて非常に美味しいものでした。
デザートには、「ポール・ボキューズ」と
同じレシピのクレーム・ブリュレが。

■ 今後の目標
次世代のシェフを育てていくことです。自分自身がポール・ボキューズ氏や諸先輩方に、「憧れの料理人」として、
夢や希望をもらい育ててもらったように、自分も若き料理人の憧れとなれるように努力していきたいと思っています。
また、もっと若者には海外にも目を向けて、自国の素晴らしさを再認識してもらいたいと思っています。
自分自身がフランスで活躍できるのも、料理界に限らず様々な業界で日本人の先輩方が、世界に「日本人の技術の
確かさ」を示してきた信頼があるからだと思います。地道な努力で築いた確かな技術と情熱があれば
どこででも通用すると、自分自身や自分の料理を通じて、若い世代へ伝えていきたいです。

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ワインはリストではイメージしにくいので、ボトルに直接値段を書いて実物(ボトル)を見て選んでいただくという
シェフこだわりのスタイル。なんだかフランス的ですね!

■ フランス校で得たもの
素晴らしい環境の中、本場の素材をふんだんに使いフランス料理を作る喜びを体感できたことはもちろんですが、
フランスの文化や生き方、価値観を体感できたことは、考え方の幅の広がりを生み出したと思います。

卒業してからも、フランスに来るたびに何度も足を運ぶフランス校は、自分にとって第二の故郷のような場所で、
料理人として初心を思い出させてくれる大切な場所です。
フランス校に行った経験があるからこそ、フランスでいつか自分の腕で勝負しよう!と思えたと思います。

■ 今も記憶に残るシェフの言葉
当時は無我夢中で授業を受けていたので、シェフの言葉というよりも身体で覚えたことの方が多かったです。
今でもコアール先生にお会いすると自ずと背筋が伸びますね。

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フランス校時代の様子

■ 卒業して思うフランス校・スタージュの一番の魅力は?
同じ目標を持った仲間と、料理や人生のことで朝まで語り合った日々は何よりもの宝物です。
大きな夢を語り合えたからこそ、その目標に向かって修業を積んでこられたのだと思います。

フランス校では日本語での会話が当たり前でしたが、スタージュ先では100%フランス語。
現場の厳しさに言葉の問題も加わり、まだおぼつかないフランス語で、相手に自分の考えを伝えるのは
至難の業でしたが、それでも伝えたい気持ちをぶつけるとなんとかなるものでした。
時には考え方の違いからフランス人相手にケンカにもなりましたが、料理へのパッションで乗り越えました。
そしてスタージュを終えるころには素晴らしい仲間になっていたのです。

当時はインターネットなどない時代。電子辞書ももちろんなく、便利な今に比べると大変だったようにも思われますが、
自分を窮地に追い込むことで自分の可能性がさらに広がっていったように思います。
かえってその不便さがよかったのかもしれません。

■ フランス校・スタージュ(実地研修)において印象に残っているエピソード
スタージュ期間も仲間と様々な地方のレストランへでかけました。もちろん、スタージュ先はバラバラ。
当時は携帯電話もないのでどうやって待ち合わせをしたかというと、手紙です。投函すれば翌日か翌々日には到着します。
そんなやりとりでもきちんと待ち合わせができました。今思えば奇跡のようですが、そのおかげで仲間との絆も
強まったのかもしれませんね。

スタージュ先へは15年の歳月が経った頃、ボルドーに立ち寄った際にふと訪ねたところ、当時のオーナーシェフが
覚えていてくれて食事をご馳走してくれました。15年もの月日が経っていたにもかかわらず、覚えていてくれ
歓迎してくださったことは何よりも嬉しいことでした。

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(写真右)ボルドーのスタージュ先で同僚達と

フランス校は、夢・希望を育む"未来への創造の場"

本人の料理に対するやる気、情熱があれば、フランス校にはそれを受け入れてくれるものがすべて備わっています。
それらを五感で十分に感じ取って、これからのスタートする料理人人生の糧にしてほしいと思います。

■ フランス校に進学する後輩たちへ
日本で20年近くフランス料理を作ってきましたが、料理の骨格はいつの時代も共通していると思います。
良い素材を見極める力、ちょうど良い火加減、味付け加減です。
これは、自分の腕=技術、確かな舌=味覚です。とても基本的で簡単なようにも聞こえますが、
日々の地道な努力とともに何年もかけて身に付くもので、様々な経験の積み重ねで築かれ磨かれるものです。
それによって、状況の変化に対応できる能力の幅も広がります。

料理には基本となる作り方=Recette(ルセット=レシピの意)がありますが、素材は季節、環境によって味にも質にも
日々変化があります。ですので、Recetteに忠実に作っても、出来上がりがいつも同じになるとは限りません。
Recetteはあくまでも目安であり、お客様にお出しする料理の出来上がりを日々一定にするために、時には塩加減や
火入れ加減を変えたり、素材の違いを敏感に感じる感性、対応できる瞬時の判断力、柔軟な応用力も必要となります。

これら、技術、知識、味覚は、毎日同じことの繰り返しや、数多くの経験の積み重ねの中で、磨かれることが
必要となってくるのだと思います。そして、これらは、本や情報から学ぶものではなく、数々の実体験、自分の五感を
フル回転させ感じ取ることがとても大事です。それらの経験が私たち料理人の技術、知識、味覚の集積となり、
自分の力量が加わって、また新たに自分の表現する料理が生まれてくるのだと思います。

フランス校はフランス料理を学ぶには最高の環境です。ただ、それは通過点でありゴールではありません。
学んだことがすぐに役立つかというとそうではないかもしれません。
でもそれは、経験が必要だからです。ですから将来の明確なヴィジョンを持って、長い道のりを楽しむための感性を
フランス校では十分に学んでほしいと思います。
フランス校で学んだことは、5年、10年、20年先の分岐点での大きなヒントとなるはずです。
Bon courage!!!


※2月23日(土)発売の「VOGUE JAPAN4月号」のパリのレストラン特集記事に、
土井原シェフのお店も紹介される予定とのこと!ぜひご覧下さい。